2011-10-25
マナに冒されしモノ
私達の目の前に現われた異形の兄妹は、マナに冒されたものだったのだろうか。
兄は身体の一部と正気を失い、妹も正気を保っているようにみえたけれど既に
思考は人のそれではなかった。
兄を思いやる心がネジ曲がり狂気へと変わり、冒険者達を襲っていた。
それが兄の失われた心をとり戻す手段なのだと信じて。
しかし、それ以上にアヤシいのはマナらしき黄色い球体を持ち去った黒マント
の男だ。
前の島でもそうだった。マナに関わる者達は皆何処か胡散臭い。
マナに冒されて人では無くなった者よりも、人のままでいる者の方が私は不気味
だと思っている。
なにかしら皆腹に何かを隠している。その企みが私は怖いのだ。
何の為に?
誰の為に?
目的の分からないもの程得体が知れなくて恐ろしい。
兄は身体の一部と正気を失い、妹も正気を保っているようにみえたけれど既に
思考は人のそれではなかった。
兄を思いやる心がネジ曲がり狂気へと変わり、冒険者達を襲っていた。
それが兄の失われた心をとり戻す手段なのだと信じて。
しかし、それ以上にアヤシいのはマナらしき黄色い球体を持ち去った黒マント
の男だ。
前の島でもそうだった。マナに関わる者達は皆何処か胡散臭い。
マナに冒されて人では無くなった者よりも、人のままでいる者の方が私は不気味
だと思っている。
なにかしら皆腹に何かを隠している。その企みが私は怖いのだ。
何の為に?
誰の為に?
目的の分からないもの程得体が知れなくて恐ろしい。
そしてマナの力の影響力を目の当たりにして私の心に不安がよぎる。
私自身もだけれど、もし私の中に宿る新しい命がマナに冒されて心の無い
人間として生まれてきたら…
そんな事を考えてしまうのだ。
不安が心と身体に広がってガクガクと身体が震える。
父さんは私の竜の力とおじ様の虎神の力を継ぐこの子の力を信じろって
言ってくれるけど、それでも……不安は拭いきれない。
だから 私はそっとおじ様に寄り添う。
こうして側にいるだけでいい。おじ様の放つ柔らかな風の気が少しずつ私の
心を癒してくれるから。
お腹の子もそれが心地よいのだろうか? その子のいるであろう場所からも
じんわりと暖かい気が放たれているのが分かる。
今は危険なこの島にいるしかないけれど、何もかもが終わったその時には皆で
カルマートへと帰って家族3人寄り添って暮らしたい。…いつかきっと。
+++++
閉じられた空間で一人泣きつかれて眠っていた女は目覚めた後、一人長い時間
目を閉じて考えていた。
どうすればこの事態を打開出来るのか?
どうすれば愛する息子を連環の輪から解き放つ事が出来るのか?
夫であるシュラから聞いた話と息子羅刹が口にした話を繋ぎ合わせても、今の
自分が置かれている状況は断片的にしか分からなかった。
彼女もまたかつては窮地をくぐり抜けてきた戦士であった。泣いていても何も
変わらないとすぐに判断・理解し必死で思考を研ぎ澄ます。
この状況を打破する為の方法を考える。
必ず何処かに突破口がある。どれだけ難解な事柄でも、どれだけ防備を固めた
要塞でも何処かに小さな綻びがある。
長く戦場にいた彼女はそれを仲間達や実体験から学んでいた。
そして彼女は決心する。
全てを知る事。
今 自分が置かれている状況と夫や息子の立ち位置、何もかも全てを知りたい と。
しかし ここは羅刹が作り出した閉じられた場所。
幾重にも結界が貼られているこの場所から出る事は出来なかった。
彼女、リーゼロッテは心の中で叫ぶ。
「誰か…あの子を助けて!」
自身の事よりも何よりも自分の息子の身を案じる母親の心は、閉じられた空間を
突き抜けて外の世界へと届く。それはとても微かなものであったけれど…
確かにその場所へと。
++++++
声にならない程の小さな声だ。
でもそれはとても強くて、俺の心に大きく響き渡った。
『誰か…あの子を助けて!』
あの声はリーゼロッテの声。
オヤジがかつて愛した女の声、クサナギの一族に連なる女の声。
連環の輪に囚われた息子を救いたいと願う母親の声。
羅刹と対峙した時に失った力はまだ全部戻ってはいない。けれど…行かなくちゃ
ならない。
リーゼロッテが助けを呼んでいるのだから。
「行くのか?」
レン之助の様子を見ていたアルシンハがシタールを弾く手を止めて言った。
アルシンハの耳にもリーゼロッテの声は届いていたのだろう。
「ああ、行く。
大罪魂を全部集める為にも、羅刹を救い出す為にもリーゼロッテの力がどうしても
必要だからな」
レン之助はすっくと立ち上がると、背の白い翼を大きく広げた。
「……その時が来るまで無理はするなよ。
お前さんの成し遂げるべき事を終える前にお前さんが消えてしもうたらシャレに
ならん」
「分かっている。無理はしないつもりだ!」
アルシンハにそう言うとレン之助は空を舞い、狭間の世の空間へと飛び去った。
向かう先は…助けを求めたリーゼロッテのいる空間。
私自身もだけれど、もし私の中に宿る新しい命がマナに冒されて心の無い
人間として生まれてきたら…
そんな事を考えてしまうのだ。
不安が心と身体に広がってガクガクと身体が震える。
父さんは私の竜の力とおじ様の虎神の力を継ぐこの子の力を信じろって
言ってくれるけど、それでも……不安は拭いきれない。
だから 私はそっとおじ様に寄り添う。
こうして側にいるだけでいい。おじ様の放つ柔らかな風の気が少しずつ私の
心を癒してくれるから。
お腹の子もそれが心地よいのだろうか? その子のいるであろう場所からも
じんわりと暖かい気が放たれているのが分かる。
今は危険なこの島にいるしかないけれど、何もかもが終わったその時には皆で
カルマートへと帰って家族3人寄り添って暮らしたい。…いつかきっと。
+++++
閉じられた空間で一人泣きつかれて眠っていた女は目覚めた後、一人長い時間
目を閉じて考えていた。
どうすればこの事態を打開出来るのか?
どうすれば愛する息子を連環の輪から解き放つ事が出来るのか?
夫であるシュラから聞いた話と息子羅刹が口にした話を繋ぎ合わせても、今の
自分が置かれている状況は断片的にしか分からなかった。
彼女もまたかつては窮地をくぐり抜けてきた戦士であった。泣いていても何も
変わらないとすぐに判断・理解し必死で思考を研ぎ澄ます。
この状況を打破する為の方法を考える。
必ず何処かに突破口がある。どれだけ難解な事柄でも、どれだけ防備を固めた
要塞でも何処かに小さな綻びがある。
長く戦場にいた彼女はそれを仲間達や実体験から学んでいた。
そして彼女は決心する。
全てを知る事。
今 自分が置かれている状況と夫や息子の立ち位置、何もかも全てを知りたい と。
しかし ここは羅刹が作り出した閉じられた場所。
幾重にも結界が貼られているこの場所から出る事は出来なかった。
彼女、リーゼロッテは心の中で叫ぶ。
「誰か…あの子を助けて!」
自身の事よりも何よりも自分の息子の身を案じる母親の心は、閉じられた空間を
突き抜けて外の世界へと届く。それはとても微かなものであったけれど…
確かにその場所へと。
++++++
声にならない程の小さな声だ。
でもそれはとても強くて、俺の心に大きく響き渡った。
『誰か…あの子を助けて!』
あの声はリーゼロッテの声。
オヤジがかつて愛した女の声、クサナギの一族に連なる女の声。
連環の輪に囚われた息子を救いたいと願う母親の声。
羅刹と対峙した時に失った力はまだ全部戻ってはいない。けれど…行かなくちゃ
ならない。
リーゼロッテが助けを呼んでいるのだから。
「行くのか?」
レン之助の様子を見ていたアルシンハがシタールを弾く手を止めて言った。
アルシンハの耳にもリーゼロッテの声は届いていたのだろう。
「ああ、行く。
大罪魂を全部集める為にも、羅刹を救い出す為にもリーゼロッテの力がどうしても
必要だからな」
レン之助はすっくと立ち上がると、背の白い翼を大きく広げた。
「……その時が来るまで無理はするなよ。
お前さんの成し遂げるべき事を終える前にお前さんが消えてしもうたらシャレに
ならん」
「分かっている。無理はしないつもりだ!」
アルシンハにそう言うとレン之助は空を舞い、狭間の世の空間へと飛び去った。
向かう先は…助けを求めたリーゼロッテのいる空間。
コメント
コメントの投稿
トラックバック
http://karen521k.blog77.fc2.com/tb.php/481-12a45444