2010-09-24
爆炎の魔術師
ひたひたと小さな足音と獣の息づかいが近づいてくる。
その気配を感じて閉じていた目を開けて身を起こす。
ここは狭間の世界。上も下も無いその場所にオレはいた。そして・・・
オレの前に現れたのは赤いマフラーを身につけた小さな少女と紅い唐獅子だ。
「本来私達だけで成さねばならぬ事なのに、ご助力いただく事になって
しまって…すみません」
少女はそう言ってぺこりと頭を下げた。紅い唐獅子はそんな少女を見上げて
小さく喉を鳴らした。よく見ると少女の肩は小刻みに震えている。
・・・そんなにオレは怖く見えるのだろうか?
「気にするな。リーゼはオレにとって大切な存在でもある。
オレ自身がリーゼを救いたいと思っているんだからそう畏まらんでくれ」
少女の前にしゃがんでその手を取り、少女の顔を見る。
可愛い顔立ちできれいな瞳の少女だ。どこかキツネに似ているのはこの娘
がキツネと同じ眷属だからなのかも知れない。
隣にいる唐獅子…レン之助が護りたいと思っている相手なのだろう。
唐獅子は少女を護るかのようにぴったりとその身を少女にくっつけている。
「一応 共に戦う事になる訳だからな、名を教えてくれないか?
オレはシュラ、シュラ・クサナギだ」
「・・・私はキツネ子。こっちの唐獅子は…レン之助よ」
名前までキツネと同じか。アイツの一族はそういう名を名乗るのが多いの
かも知れない…
そんな事を思った。
ー親父、キツネ子もオレと同じだ。
キツネの影として呪いで生み出された女だー
レン之助が心話でオレに話しかけてきた。
今のレン之助は人の言葉を話す事は出来ず、獣の人外種族としか意思の疎通
は出来ない。
だが、カレンとオレは近い血族である事と竜族であるせいかレン之助の言葉
が頭の中に直接響いてくるのだ。
「1つ約束してくれんか。おぬしがレン之助と話せる事、螺旋樹の巫女には
内緒にしておいてほしいんじゃ」
神族アルシンハがオレに課した約束だ。
こいつ達にはこいつ達の事情があるようで、この約束もその事情と絡んでいる
のかも知れない。
見ていると、この2人は互いを大切に想い合っている様子だ。
・・・誰もが何らかの宿業を背負っている。この2人もそうなのだろう。
「行きましょう。眠り姫リーゼロッテの元へ」
レン之助がその背をオレとキツネ子へと向け、キツネ子はひらりとその背に
跨がる。
オレもキツネ子の後ろでレン之助の背に跨がると、レン之助は大きな白い翼
を広げて狭間の世界を駆け始めた。
様々な世界と様々な人の夢の間をすり抜けて唐獅子は走る。
「眠り姫リーゼロッテは邪竜に囚われています。
けれどその身を繭に封じて邪竜から身を護っているようなんです」
移動している間、キツネ子は自分の知る情報をオレに教えてくれた。
「彼女の側に近づく事が難しくて詳細は分かりません。
ただ・・・」
「ただ?」
「彼女の心は邪竜に屈してはいないと思います」
「近づけないと言っていたが、何故そんな事が分かる?」
「あの邪竜は快楽をもって女を堕落させ虜にし、その女の腹を借りて仲間を
増やします。
けれど…リーゼロッテは長く邪竜に囚われているにもかかわらず邪竜の仔
を産んではいません」
「・・・・・・」
「そして小さな声でずっと呼んでいるの。
『シュラさん』貴方の名前を」
オレは何も知らぬままでいた。リーゼは死んだ後、ずっとそんな目にあって
いたのか?何百年もずっとそんな目に・・・
ー親父、自分を責めるな。現世にいる者が幻世の事を知る事等不可能だ。
それに・・・今、親父は危険を承知でリーゼロッテを救おうと覚悟を
決めたんだろ? ならそれでいいじゃねぇか。
親父がその手でリーゼロッテを救えば何の問題もねぇー
レン之助がぽそりとそう言ってくれた。
ああ そうだ。今のオレに出来る事はリーゼロッテの手を取って邪竜から救う事。
「後、リーゼロッテに近づくのが難しいのには訳があります。
彼女の繭に近づこうとすると爆炎の魔術師がそれを阻もうとするの。
……呪われし鉄血の司祭『バイライト・クトゥヴァ・フォーマルハウト』が」
「? 何故そいつがリーゼを?」
「本来邪竜は現世の女を獲物にします。魂だけとなった存在を捕らえるだけの
力等は持たないから。けれどあの邪竜はリーゼロッテを捕らえている・・・
多分彼がリーゼロッテを捕らえている邪竜に手を貸しているんじゃないかしら?
…バイライトも大罪魂の持ち主だからそのぐらいの事は簡単でしょうし」
++++++++++++++
暗い空間で1人の女がその身を竜と長身の男に組み敷かれて荒い息を吐いている。
後ろから長身の男がその手で女の顔をそっと持ち上げ、女の耳に舌を這わせた後
小さな声で女に言い聞かせる。
「どれだけ抗っても誰も助けになんざ来ない。此処にいるのは邪竜とこの俺、
お前の夫であるバイライト・クトゥヴァ・フォーマルハウトだけだぜ」
「・・・ち 違う」
身体を支配する快楽に必死に抗いながら女は男の言葉を否定する。
「くひひひ 何が違う? 既に身体は邪竜と俺のモノになっているじゃないか!
お前の身体の事なら何だって分かる。お前の腹は何度も邪竜の仔を孕んで何百匹も
竜を産み落としてきたし…お前は自分のその身に男の精を注がれる事がたまらなく
好きな淫乱な雌だ」
そう言いながら男はリーゼロッテの尻を突きあげた。突かれたリーゼは大きく息を
吐きその身を震わせる。
「可愛いリーゼロッテ。俺の可愛い花嫁。邪竜の母にして大罪魂の持ち主…
さあ、何もかも忘れて快楽にだけ身も心も捧げろ。そうしたら・・・・・」
「……シュラさん…助け…て……」
何か近づいてくる気配を感じて男は身を起こして外へと繋がる扉を見つめる。
近づく気配は彼にとって最大の敵、螺旋樹の巫女と竜の杖だ。
「ふん クソったれ共がついに来やがったか!」
++++++++++++++
唐獅子が目指す先に小さな光が見える。
禍々しい紫の光を帯びた小さな光。近づくにつれその光の中にある物の形状が
はっきり視認出来るようになってきた。
幾重にも折り重なり脈動する触手に包まれた繭。禍々しい光は繭を捕らえている
その触手が放っている。
そこに近づいた時、小さな声がシュラの頭に響く。
自分の名を呼び助けを求める声。
「リーゼ!」
居ても立ってもいられず、シュラは唐獅子の背から飛び降りて自分の脚でその繭
へと走り出す。
そこにいるのだ。
遠い昔に別れてしまった自分の妻が。初めて自分を愛してくれた妻が。
「リーゼロッテ!」
必死でその名を呼ぶ。自分はここにいるのだと彼女に分かってもらう為に。
そして繭へと近づこうとしたその時・・・
耳を裂く轟音と共に炎が巻き起こりシュラの脚を止めた。煌煌と燃えさかる赤紫
の炎はどこか禍々しい。
「人の楽しい時間を邪魔しにきやがったクソ野郎は貴様か!
リーゼロッテとの楽しい一時に水をさしやがって・・・」
炎を纏って現れたのはシュラの夢に現れたスキンヘッドの魔導士だ。リーゼを妻
と呼ぶその男をシュラはギロリと睨みつけた。
そんなシュラを見て魔導士はふふんと鼻で笑い満足げに目を細める。
「なかなか骨のある奴…上出来だ!
頭が死ぬ程ファックするまでシゴいてやる!シゴき倒して・・・燃やしつくして
ひざまづかせてやる!」
「黙れ変態! 減らず口が叩けなくなるぐらいシメてやるから覚悟しやがれ!」
シュラは背中に背負った刀を抜いて戦闘態勢に入る。
シュラの望みは只1つ、リーゼロッテを助け出す事。
その為にまずはこの魔導士を倒さねばならない。前衛戦士であるシュラにとって
魔法使いは相性が良くない相手でもある。しかも相手は大罪魂の持ち主だ。
・・・それでも戦わねばならない。
シュラは深く息を吐き刀の柄を強く握りなおした。
オレ自身がリーゼを救いたいと思っているんだからそう畏まらんでくれ」
少女の前にしゃがんでその手を取り、少女の顔を見る。
可愛い顔立ちできれいな瞳の少女だ。どこかキツネに似ているのはこの娘
がキツネと同じ眷属だからなのかも知れない。
隣にいる唐獅子…レン之助が護りたいと思っている相手なのだろう。
唐獅子は少女を護るかのようにぴったりとその身を少女にくっつけている。
「一応 共に戦う事になる訳だからな、名を教えてくれないか?
オレはシュラ、シュラ・クサナギだ」
「・・・私はキツネ子。こっちの唐獅子は…レン之助よ」
名前までキツネと同じか。アイツの一族はそういう名を名乗るのが多いの
かも知れない…
そんな事を思った。
ー親父、キツネ子もオレと同じだ。
キツネの影として呪いで生み出された女だー
レン之助が心話でオレに話しかけてきた。
今のレン之助は人の言葉を話す事は出来ず、獣の人外種族としか意思の疎通
は出来ない。
だが、カレンとオレは近い血族である事と竜族であるせいかレン之助の言葉
が頭の中に直接響いてくるのだ。
「1つ約束してくれんか。おぬしがレン之助と話せる事、螺旋樹の巫女には
内緒にしておいてほしいんじゃ」
神族アルシンハがオレに課した約束だ。
こいつ達にはこいつ達の事情があるようで、この約束もその事情と絡んでいる
のかも知れない。
見ていると、この2人は互いを大切に想い合っている様子だ。
・・・誰もが何らかの宿業を背負っている。この2人もそうなのだろう。
「行きましょう。眠り姫リーゼロッテの元へ」
レン之助がその背をオレとキツネ子へと向け、キツネ子はひらりとその背に
跨がる。
オレもキツネ子の後ろでレン之助の背に跨がると、レン之助は大きな白い翼
を広げて狭間の世界を駆け始めた。
様々な世界と様々な人の夢の間をすり抜けて唐獅子は走る。
「眠り姫リーゼロッテは邪竜に囚われています。
けれどその身を繭に封じて邪竜から身を護っているようなんです」
移動している間、キツネ子は自分の知る情報をオレに教えてくれた。
「彼女の側に近づく事が難しくて詳細は分かりません。
ただ・・・」
「ただ?」
「彼女の心は邪竜に屈してはいないと思います」
「近づけないと言っていたが、何故そんな事が分かる?」
「あの邪竜は快楽をもって女を堕落させ虜にし、その女の腹を借りて仲間を
増やします。
けれど…リーゼロッテは長く邪竜に囚われているにもかかわらず邪竜の仔
を産んではいません」
「・・・・・・」
「そして小さな声でずっと呼んでいるの。
『シュラさん』貴方の名前を」
オレは何も知らぬままでいた。リーゼは死んだ後、ずっとそんな目にあって
いたのか?何百年もずっとそんな目に・・・
ー親父、自分を責めるな。現世にいる者が幻世の事を知る事等不可能だ。
それに・・・今、親父は危険を承知でリーゼロッテを救おうと覚悟を
決めたんだろ? ならそれでいいじゃねぇか。
親父がその手でリーゼロッテを救えば何の問題もねぇー
レン之助がぽそりとそう言ってくれた。
ああ そうだ。今のオレに出来る事はリーゼロッテの手を取って邪竜から救う事。
「後、リーゼロッテに近づくのが難しいのには訳があります。
彼女の繭に近づこうとすると爆炎の魔術師がそれを阻もうとするの。
……呪われし鉄血の司祭『バイライト・クトゥヴァ・フォーマルハウト』が」
「? 何故そいつがリーゼを?」
「本来邪竜は現世の女を獲物にします。魂だけとなった存在を捕らえるだけの
力等は持たないから。けれどあの邪竜はリーゼロッテを捕らえている・・・
多分彼がリーゼロッテを捕らえている邪竜に手を貸しているんじゃないかしら?
…バイライトも大罪魂の持ち主だからそのぐらいの事は簡単でしょうし」
++++++++++++++
暗い空間で1人の女がその身を竜と長身の男に組み敷かれて荒い息を吐いている。
後ろから長身の男がその手で女の顔をそっと持ち上げ、女の耳に舌を這わせた後
小さな声で女に言い聞かせる。
「どれだけ抗っても誰も助けになんざ来ない。此処にいるのは邪竜とこの俺、
お前の夫であるバイライト・クトゥヴァ・フォーマルハウトだけだぜ」
「・・・ち 違う」
身体を支配する快楽に必死に抗いながら女は男の言葉を否定する。
「くひひひ 何が違う? 既に身体は邪竜と俺のモノになっているじゃないか!
お前の身体の事なら何だって分かる。お前の腹は何度も邪竜の仔を孕んで何百匹も
竜を産み落としてきたし…お前は自分のその身に男の精を注がれる事がたまらなく
好きな淫乱な雌だ」
そう言いながら男はリーゼロッテの尻を突きあげた。突かれたリーゼは大きく息を
吐きその身を震わせる。
「可愛いリーゼロッテ。俺の可愛い花嫁。邪竜の母にして大罪魂の持ち主…
さあ、何もかも忘れて快楽にだけ身も心も捧げろ。そうしたら・・・・・」
「……シュラさん…助け…て……」
何か近づいてくる気配を感じて男は身を起こして外へと繋がる扉を見つめる。
近づく気配は彼にとって最大の敵、螺旋樹の巫女と竜の杖だ。
「ふん クソったれ共がついに来やがったか!」
++++++++++++++
唐獅子が目指す先に小さな光が見える。
禍々しい紫の光を帯びた小さな光。近づくにつれその光の中にある物の形状が
はっきり視認出来るようになってきた。
幾重にも折り重なり脈動する触手に包まれた繭。禍々しい光は繭を捕らえている
その触手が放っている。
そこに近づいた時、小さな声がシュラの頭に響く。
自分の名を呼び助けを求める声。
「リーゼ!」
居ても立ってもいられず、シュラは唐獅子の背から飛び降りて自分の脚でその繭
へと走り出す。
そこにいるのだ。
遠い昔に別れてしまった自分の妻が。初めて自分を愛してくれた妻が。
「リーゼロッテ!」
必死でその名を呼ぶ。自分はここにいるのだと彼女に分かってもらう為に。
そして繭へと近づこうとしたその時・・・
耳を裂く轟音と共に炎が巻き起こりシュラの脚を止めた。煌煌と燃えさかる赤紫
の炎はどこか禍々しい。
「人の楽しい時間を邪魔しにきやがったクソ野郎は貴様か!
リーゼロッテとの楽しい一時に水をさしやがって・・・」
炎を纏って現れたのはシュラの夢に現れたスキンヘッドの魔導士だ。リーゼを妻
と呼ぶその男をシュラはギロリと睨みつけた。
そんなシュラを見て魔導士はふふんと鼻で笑い満足げに目を細める。
「なかなか骨のある奴…上出来だ!
頭が死ぬ程ファックするまでシゴいてやる!シゴき倒して・・・燃やしつくして
ひざまづかせてやる!」
「黙れ変態! 減らず口が叩けなくなるぐらいシメてやるから覚悟しやがれ!」
シュラは背中に背負った刀を抜いて戦闘態勢に入る。
シュラの望みは只1つ、リーゼロッテを助け出す事。
その為にまずはこの魔導士を倒さねばならない。前衛戦士であるシュラにとって
魔法使いは相性が良くない相手でもある。しかも相手は大罪魂の持ち主だ。
・・・それでも戦わねばならない。
シュラは深く息を吐き刀の柄を強く握りなおした。
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