2010-02-26
唐獅子、再び島へ
音の無い森にある『大地竜の根城』の居間の暖炉の前に小さな碧色の唐獅子が
丸くなって眠っている。
この唐獅子、一時は行方知れずになりこの屋敷に戻ってきたのは半年程前の事だ。
主の力の届かぬ遠く離れた北の地で力を使い過ぎた為に意識を失った状態で
ここに運ばれ、一ヶ月近く意識が戻らなかった。
最近になってやっと身体も大きくなって力も安定してきたが、それでも
うとうとと眠っている時間が長い。
丸くなって眠っている。
この唐獅子、一時は行方知れずになりこの屋敷に戻ってきたのは半年程前の事だ。
主の力の届かぬ遠く離れた北の地で力を使い過ぎた為に意識を失った状態で
ここに運ばれ、一ヶ月近く意識が戻らなかった。
最近になってやっと身体も大きくなって力も安定してきたが、それでも
うとうとと眠っている時間が長い。
「くわ~っ!」
大きな欠伸をして身体を大きく伸ばすと唐獅子は頭をぷるぷると振って
起き上がる。
そして自分の身体の毛繕いを始めた。
毛繕いをしながらも時々何か物思いに耽るように動きを止め、溜め息を
つく。
「おう! 大分調子が戻ってきたか」
ずかずかと居間にやって来たのはこの屋敷の主、唐獅子の主でもある
シュラだ。
最近は街で鍛冶の仕事をしている以外の時間を屋敷の書庫での調べもの
に費やしており、うっすらと無精髭を生やしている。
「主、ヒゲぐらいちゃんと剃った方がいいのではないか?
ニオ殿もそれではドン引きしてしまう」
「いちいち細かい事に突っ込むな。で、お前のその溜め息の原因は何なんだ?」
「別に・・・」
「あの赤毛の姉ちゃんの事が気になってんだろ?」
「な!」
シュラの口から出た『赤毛の姉ちゃん』という言葉を聞いて唐獅子の毛が
一瞬で逆立った。どうやら図星だったようで、唐獅子はふいと視線を主から
逸らして暖炉の火を見つめている。
シュラが言う所の赤毛の姉ちゃんは、羅喉丸をデーツからこの屋敷まで連れて
きてくれたガートルード・ビットフェルトの事だ。
羅喉丸は以前の島で起きたマナの暴走による強制転移でカルマートではなく、
デーツと言う北の国へと飛ばされていたのだ。
そしてそこでガートルードを救う為に力を使い果たしたのだと・・・屋敷に
招かれたガートルードはシュラ達にそう語った。
故国での仕事がある為に、ガートルードは一週間でカルマートを発ちデーツへ
と戻ったが羅喉丸の意識が戻らぬ事を最後まで気にしていた。
意識が戻った後の羅喉丸もその事をシュラから聞いて何やら残念そうな様子で・・・
どう見ても、誰から見ても羅喉丸があのガートルードと言う娘を意識している
事は一目瞭然だったし、ガートルードと言う娘も羅喉丸の事をそこそこ気に
しているであろう事は屋敷に滞在中の彼女の態度から見てとれた。
「我はガートルード殿の事を気にしている訳では・・・
ただ助けてもらったのに礼が言えなかった事が」
尻尾を振りつつぽそりと羅喉丸が呟いた。
羅喉丸自体その自分の中にある感情が何なのか理解していないのだろう。
シュラはそんな唐獅子を見て嬉しそうに笑い、後ろから唐獅子の頭をわしわし
と撫でた。
「お前の力も大分戻った事だし、1つ主のオレから命令をだしてやろう。
カレンと黒風の向かったあの島へ行け」
シュラの言葉を聞いて羅喉丸は尻尾をピンと立てる。
「カレンには黒風がいるから大丈夫だろう。だが・・・
どうもキツネの事が気になって仕方がねぇ。アイツが一番ヤバい場所に
立っているからな。お前が側にいて護ってやってくれ」
「キツネ殿を?」
「キツネはまだ年若い。故に心が不安定だ。そこを白面の闇につけ込まれる
可能性が高い。だから時には支えが必要だろう」
「何故我が?」
「お前の修行の1つにもなるだろう? お前はお前でまだ人の心を理解して
ないからな」
何やら複雑な顔をして首を傾げ羅喉丸は耳をぷるぷると振る。
主の言葉の意味が今ひとつ分からない そんな様子だ。
「ついでに黒風に赤毛の姉ちゃんの事も聞けゃいいだろう。
アイツは友人様らしいからな。赤毛の姉ちゃんが今どうしているか知って
るかもしれん」
唐獅子は暫く俯いて考え込んでいたが、
「主がそう言うなら島へと行こう。
キツネ殿の事は我も気になっていたし、カレンにも会いたい」
と そう答えた。
「・・・素直に赤毛の姉ちゃんの事を知りたいと言えよ」
「だから! それが一番の理由ではないと言うのに!」
くわっと吠える唐獅子を見てシュラはふふんと鼻で笑った後、呪を唱えて
己の小指を歯で傷つけ血の滲み出た指を羅喉丸の口の前へと差し出す。
羅喉丸がその血を一舐めする事で羅喉丸は主の力の一部をその身に得る・・・
力の譲渡の儀式。
「大した力ではないが、島で動くには十分な筈だ。
大技は・・・いざと言う時の為にとっとけよ」
そう言うとシュラは羅喉丸の頭を軽く撫で、再び書庫の方へと歩いて
行ってしまった。
羅喉丸は立ち上がり、島へと向かう為に外へ出ようとしたその時
「羅喉丸 ちょっと待って」
声をかけたのはシュラの妻であるニオだ。その手には大きな袋が2つ抱え
られている。
「島に行くのならこれを黒風さんとカレンに届けて欲しいの。
余計なお願いで申し訳ないんだけど・・・」
「構わぬ、ついでの事だ。それにこれは式の時に渡せなかった品であろう?
ならばなおさらあの2人に渡さねばならぬ。ニオ殿の心がこもって
おるのだから」
そう言うと羅喉丸は袋を器用に背中に背負い、扉をくぐり外へ出た。
少し冷たい風が上空を渡っている。その風の流れを読んで羅喉丸はふわり
と上空へと浮かび風に乗り駆け出していった。
ニオはそれを見送りながら手を振る。
「行ったか」
「ええ、貴方に言われて即行動に出るなんて・・・羅喉丸は相当あの
お嬢さんに夢中なのね」
「アイツはまだ若造で恋だの愛だのは全然わかっちゃいねぇから自覚が
無いんだろうよ」
「相手のお嬢さんもまんざらでもなさそうだし、うまくいくといいわね」
「異種族同士で色々ハードルは高いがな」
「あら 貴方の蔵書の中にもあったでしょ、唐獅子と人が結ばれる話が。
なら大丈夫よ」
そんな話をされているのも知らず唐獅子は風に乗って彼の島へと向かう。
新たなマナで作られた彼の島へと。
大きな欠伸をして身体を大きく伸ばすと唐獅子は頭をぷるぷると振って
起き上がる。
そして自分の身体の毛繕いを始めた。
毛繕いをしながらも時々何か物思いに耽るように動きを止め、溜め息を
つく。
「おう! 大分調子が戻ってきたか」
ずかずかと居間にやって来たのはこの屋敷の主、唐獅子の主でもある
シュラだ。
最近は街で鍛冶の仕事をしている以外の時間を屋敷の書庫での調べもの
に費やしており、うっすらと無精髭を生やしている。
「主、ヒゲぐらいちゃんと剃った方がいいのではないか?
ニオ殿もそれではドン引きしてしまう」
「いちいち細かい事に突っ込むな。で、お前のその溜め息の原因は何なんだ?」
「別に・・・」
「あの赤毛の姉ちゃんの事が気になってんだろ?」
「な!」
シュラの口から出た『赤毛の姉ちゃん』という言葉を聞いて唐獅子の毛が
一瞬で逆立った。どうやら図星だったようで、唐獅子はふいと視線を主から
逸らして暖炉の火を見つめている。
シュラが言う所の赤毛の姉ちゃんは、羅喉丸をデーツからこの屋敷まで連れて
きてくれたガートルード・ビットフェルトの事だ。
羅喉丸は以前の島で起きたマナの暴走による強制転移でカルマートではなく、
デーツと言う北の国へと飛ばされていたのだ。
そしてそこでガートルードを救う為に力を使い果たしたのだと・・・屋敷に
招かれたガートルードはシュラ達にそう語った。
故国での仕事がある為に、ガートルードは一週間でカルマートを発ちデーツへ
と戻ったが羅喉丸の意識が戻らぬ事を最後まで気にしていた。
意識が戻った後の羅喉丸もその事をシュラから聞いて何やら残念そうな様子で・・・
どう見ても、誰から見ても羅喉丸があのガートルードと言う娘を意識している
事は一目瞭然だったし、ガートルードと言う娘も羅喉丸の事をそこそこ気に
しているであろう事は屋敷に滞在中の彼女の態度から見てとれた。
「我はガートルード殿の事を気にしている訳では・・・
ただ助けてもらったのに礼が言えなかった事が」
尻尾を振りつつぽそりと羅喉丸が呟いた。
羅喉丸自体その自分の中にある感情が何なのか理解していないのだろう。
シュラはそんな唐獅子を見て嬉しそうに笑い、後ろから唐獅子の頭をわしわし
と撫でた。
「お前の力も大分戻った事だし、1つ主のオレから命令をだしてやろう。
カレンと黒風の向かったあの島へ行け」
シュラの言葉を聞いて羅喉丸は尻尾をピンと立てる。
「カレンには黒風がいるから大丈夫だろう。だが・・・
どうもキツネの事が気になって仕方がねぇ。アイツが一番ヤバい場所に
立っているからな。お前が側にいて護ってやってくれ」
「キツネ殿を?」
「キツネはまだ年若い。故に心が不安定だ。そこを白面の闇につけ込まれる
可能性が高い。だから時には支えが必要だろう」
「何故我が?」
「お前の修行の1つにもなるだろう? お前はお前でまだ人の心を理解して
ないからな」
何やら複雑な顔をして首を傾げ羅喉丸は耳をぷるぷると振る。
主の言葉の意味が今ひとつ分からない そんな様子だ。
「ついでに黒風に赤毛の姉ちゃんの事も聞けゃいいだろう。
アイツは友人様らしいからな。赤毛の姉ちゃんが今どうしているか知って
るかもしれん」
唐獅子は暫く俯いて考え込んでいたが、
「主がそう言うなら島へと行こう。
キツネ殿の事は我も気になっていたし、カレンにも会いたい」
と そう答えた。
「・・・素直に赤毛の姉ちゃんの事を知りたいと言えよ」
「だから! それが一番の理由ではないと言うのに!」
くわっと吠える唐獅子を見てシュラはふふんと鼻で笑った後、呪を唱えて
己の小指を歯で傷つけ血の滲み出た指を羅喉丸の口の前へと差し出す。
羅喉丸がその血を一舐めする事で羅喉丸は主の力の一部をその身に得る・・・
力の譲渡の儀式。
「大した力ではないが、島で動くには十分な筈だ。
大技は・・・いざと言う時の為にとっとけよ」
そう言うとシュラは羅喉丸の頭を軽く撫で、再び書庫の方へと歩いて
行ってしまった。
羅喉丸は立ち上がり、島へと向かう為に外へ出ようとしたその時
「羅喉丸 ちょっと待って」
声をかけたのはシュラの妻であるニオだ。その手には大きな袋が2つ抱え
られている。
「島に行くのならこれを黒風さんとカレンに届けて欲しいの。
余計なお願いで申し訳ないんだけど・・・」
「構わぬ、ついでの事だ。それにこれは式の時に渡せなかった品であろう?
ならばなおさらあの2人に渡さねばならぬ。ニオ殿の心がこもって
おるのだから」
そう言うと羅喉丸は袋を器用に背中に背負い、扉をくぐり外へ出た。
少し冷たい風が上空を渡っている。その風の流れを読んで羅喉丸はふわり
と上空へと浮かび風に乗り駆け出していった。
ニオはそれを見送りながら手を振る。
「行ったか」
「ええ、貴方に言われて即行動に出るなんて・・・羅喉丸は相当あの
お嬢さんに夢中なのね」
「アイツはまだ若造で恋だの愛だのは全然わかっちゃいねぇから自覚が
無いんだろうよ」
「相手のお嬢さんもまんざらでもなさそうだし、うまくいくといいわね」
「異種族同士で色々ハードルは高いがな」
「あら 貴方の蔵書の中にもあったでしょ、唐獅子と人が結ばれる話が。
なら大丈夫よ」
そんな話をされているのも知らず唐獅子は風に乗って彼の島へと向かう。
新たなマナで作られた彼の島へと。
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