2009-08-03
エピローグ1 ーマナが停止する日ー
魔法陣の術式が起動しなくなった。
あっという間に冒険者達の間で広まったその噂は真実だった。
遺跡内へと続く道筋である「始まりの魔法陣」はその魔力を失い、地面に描かれた
その図柄に纏わりついていた魔力光は消えている。
遺跡内から遺跡外へと出る事は可能だが、一旦外に出てしまうと中へと戻る事は
出来ず移動魔法は一方通行にしか働いていないようだ。
偶然起きた事故なのか。
それともあの招待状の送り主に何かあったのか。
あっという間に冒険者達の間で広まったその噂は真実だった。
遺跡内へと続く道筋である「始まりの魔法陣」はその魔力を失い、地面に描かれた
その図柄に纏わりついていた魔力光は消えている。
遺跡内から遺跡外へと出る事は可能だが、一旦外に出てしまうと中へと戻る事は
出来ず移動魔法は一方通行にしか働いていないようだ。
偶然起きた事故なのか。
それともあの招待状の送り主に何かあったのか。
カレン達のパーティも遺跡外の一角に野営地を構え、再び遺跡へと潜る日
の為に準備を整えている。
1日おきにカレンの父親であるシュラがカルマートから島へとやってきて、
カレンの様子を見ているが
「は? 遺跡に入れない?・・・随分と唐突な展開だな。」
島で起きた事象をムルシドやキツネから聞いてシュラは複雑な表情になる。
遺跡の奥深くの何処かで身を潜めている「白面」の事が気がかりなのだろう。
遺跡に入れないとなると、白面との決着はどうなってしまうのか。
己の2人の子供、そして自身も白面と縁が出来てしまっただけにこの事が
どう影響するのかが気にかかるのだ。
「…ホルスはどうしている?」
暫く考え込んだ後、カレンにシュラはそう尋ねた。
「ずっと白面…いいえ キズナに呼びかけているわ。でも・・・。」
「でも・・・?」
カレンは小さな溜め息を一つつき、不安そうな顔をしてシュラを見る。
「反応が全くない・・・と言う事か。」
「ええ そうみたい。それでもホルスは諦めないでいるみたいだけど、端で
見ていると胸が痛むわ。」
閉ざされた遺跡、何の動きも見せない白面。
何らかの関連性があるのか、それとも無関係なのか…タイミングが合い過ぎて
いる事に一抹の不安が心をよぎる。
シュラにも大地竜テラにも予知の力がある訳ではないが、長い時間生きている
経験からくる勘が心の隅で何かを告げている。そんなむず痒い不安を感じていた。
「あ〜あ 遺跡に入れないんじゃこっちも勅命の任務が終わらないよ。」
そんな事をぼやきながら羅喉丸の頭をもふもふと撫でくり回しているのは、
黒風の友人でもある赤毛の槍使いガートルードだ。
いつの間にか羅喉丸と友人関係を築いたらしく、遺跡に入れなくなってからは
毎日のように野営地にやって来て羅喉丸に抱きついている。
羅喉丸もまんざらではないのかガートルードとの会話をそれなりに楽しんで
いる様子だ。
「あらあらガートルード、あんまり羅喉丸さんにベタベタしちゃ迷惑よ。」
「ガートルードは加減と言う物を知らぬからな。」
ガートルードが暇と言う事は、デーツからやって来ている者達も当然暇を持て
余していて、気がつくと野営地にはテレーズやグリューネワルト、アンネローゼ
も常駐しているような状態になっている。
若い女性が大挙して押しかけているのでキツネは照れてしまっているのかテント
から出てこない事が多いが、黒風やムルシドに促されてテントから出てくると
大抵テレーズがキツネを自分の側に座らせて色々と世話を焼く。
「そんなに畏まらないで。…もしよければ貴方の国のお話、色々と聞かせて
くれる? 東方の国の事は私達の国では殆ど知られていないの。」
自分たちの持って来た茶と菓子をキツネに勧めながらテレーズはニコとキツネに
笑いかけた。
「・・・すみません。なんだかいつもお邪魔する事になってしまって。」
カレンとムルシドと共に食事の下準備を手伝いつつ、アンネローゼが申し訳なさ
そうな顔をした。
「そんなにしょぼくれないで。いつも差し入れもしてもらってるし、お手伝いも
してもらってるし・・・」
「うむ 大勢で食事するのは楽しいしよいではないか。そう遠慮せずとも・・・」
遺跡外では緩やかに時間は流れていた。
探索が出来ぬ事で余裕が出来た事もあり、親交を深める事も出来る。
今までもそうだった。あの人物は必ず何らかのリアクションを取るはずだ。
それまではゆったりと休息をとり、島での生活を満喫するのも悪くはない。
繁華街の掲示板には夏の海を楽しむイベントの告知等も貼られている。
スリルが好きな冒険者達の中には島を見限り島を去った者もいたようだが、
大半の者達はあの謎の招待状の送り主の動きを待つ事にしたようだった。
野営地から少し離れた所にある樹の下で煙草を吸いながら黒風が空を見上げて
いた。
「ふん さすがに歳食ってるだけに楽観的・・・にはなれんか?」
そう声をかけながらシュラは黒風の側に腰を降ろした。
煙草の煙はゆらゆらと揺らめき、高い場所で空気に溶けて行く。
「まぁな。俺が抱えている問題がクリアになった訳ではないし・・・キツネや
カレンを狙っている白面とやらの事も解決した訳ではない。
平穏な時に厄介ごとは突然やってくるモノだ。油断は出来んだろう。」
ゆったりとした中に何処かひっかかるナニかの気配を、黒風も感じているの
だろう。煙草の火を消し、吸い殻を腰に付けた携帯用の灰皿に詰め込むと腕を
組んでシュラの方へと視線を移した。
「カルマートの黒い風はまだ耄碌しちゃいネェって事か。
ま 確かにナニが起こるかわかんないからな。この島では特に・・・。」
「そうじゃなぁ〜 こんなデタラメな場所、他の世界でも滅多にないからの。」
樹の茂みからいきなり黒髪の小娘が逆さまのまま顔を出し、シュラと黒風を見て
にやりと笑った。
小娘の正体は黒風と一体化した黒い虎神、トウコツだ。
最近は黒風と分離して人型のまま島の生活を満喫している。
「今の所危険は無いとは思うが、油断はせぬ方が良かろう。
どうも遺跡の中の方では力が満ちておるような感じがしてならぬ・・・」
耳をくるくると動かしつつそう言うと樹から飛び降りてぼてぽてと黒風の側へと
歩み寄り、トウコツは黒風の服の裾を掴んだ。
「で、今日の飯は何じゃ?
どうせまたおぬしのご友人達とやらが大挙して押し掛けて
おるだろうし、西洋の食べ物だろうが…たまには東洋の食事も食いたいのぅ。」
少ししおれた様子のトウコツを黒風はひょいと肩の上に乗せ、野営地の方へと
足を向ける。
「メニューについてはムルシド殿が決定権を持っている。
食べたい物をリクエストしてみるといい。
アンネローゼ達もいつもと違う食事を喜ぶかもしれないしな。」
野営地の方へ向かう2人を見送り、シュラは遺跡の入り口のある方向へと意識を
向けた。
いつもと変わらぬ空の色。空気も何一つ変わらない。
繁華街も港もいつも通り冒険者達で賑わっている。
「確かに 閉ざされてしまった先の事は此処からでは見えぬし分かりはせぬ。
あの虎神の力を持ってしても分からぬと言うのも…不気味じゃな。」
「この島自体が普通の理とは違う力の上に成り立っているからな。神族の力が
通用しないとしても驚かん。」
この平穏な日々が続けばいい。何事も無い事が一番だ。
そんな事をシュラは思う。
しかし・・・カレン達の宿業はそれを多分許さない。一時の平穏の後にそれは
必ずやって来る。どんな形でやってくるのか分からぬままに。
誰も何も言わなかったが、多分いつ何が起きてもいいように覚悟はしているだろう。
「さて ムルシドの手伝いをするとしようか。」
深呼吸を1つした後、シュラは野営地の方へと歩いて行く。
陽が傾き、青空に少し赤みが差した空を風が駆け抜ける。
夏の日差しに焼けた土の匂いと、空にある大きな雲が内にはらんだ水の香りを
乗せた風は野営地のある平原を西から東へと走っていった。
遺跡の島の平穏な夏の1日が終わろうとしていた。
明日の事は誰にも分からない。
そう この島がこの先どうなってしまうのかも。
の為に準備を整えている。
1日おきにカレンの父親であるシュラがカルマートから島へとやってきて、
カレンの様子を見ているが
「は? 遺跡に入れない?・・・随分と唐突な展開だな。」
島で起きた事象をムルシドやキツネから聞いてシュラは複雑な表情になる。
遺跡の奥深くの何処かで身を潜めている「白面」の事が気がかりなのだろう。
遺跡に入れないとなると、白面との決着はどうなってしまうのか。
己の2人の子供、そして自身も白面と縁が出来てしまっただけにこの事が
どう影響するのかが気にかかるのだ。
「…ホルスはどうしている?」
暫く考え込んだ後、カレンにシュラはそう尋ねた。
「ずっと白面…いいえ キズナに呼びかけているわ。でも・・・。」
「でも・・・?」
カレンは小さな溜め息を一つつき、不安そうな顔をしてシュラを見る。
「反応が全くない・・・と言う事か。」
「ええ そうみたい。それでもホルスは諦めないでいるみたいだけど、端で
見ていると胸が痛むわ。」
閉ざされた遺跡、何の動きも見せない白面。
何らかの関連性があるのか、それとも無関係なのか…タイミングが合い過ぎて
いる事に一抹の不安が心をよぎる。
シュラにも大地竜テラにも予知の力がある訳ではないが、長い時間生きている
経験からくる勘が心の隅で何かを告げている。そんなむず痒い不安を感じていた。
「あ〜あ 遺跡に入れないんじゃこっちも勅命の任務が終わらないよ。」
そんな事をぼやきながら羅喉丸の頭をもふもふと撫でくり回しているのは、
黒風の友人でもある赤毛の槍使いガートルードだ。
いつの間にか羅喉丸と友人関係を築いたらしく、遺跡に入れなくなってからは
毎日のように野営地にやって来て羅喉丸に抱きついている。
羅喉丸もまんざらではないのかガートルードとの会話をそれなりに楽しんで
いる様子だ。
「あらあらガートルード、あんまり羅喉丸さんにベタベタしちゃ迷惑よ。」
「ガートルードは加減と言う物を知らぬからな。」
ガートルードが暇と言う事は、デーツからやって来ている者達も当然暇を持て
余していて、気がつくと野営地にはテレーズやグリューネワルト、アンネローゼ
も常駐しているような状態になっている。
若い女性が大挙して押しかけているのでキツネは照れてしまっているのかテント
から出てこない事が多いが、黒風やムルシドに促されてテントから出てくると
大抵テレーズがキツネを自分の側に座らせて色々と世話を焼く。
「そんなに畏まらないで。…もしよければ貴方の国のお話、色々と聞かせて
くれる? 東方の国の事は私達の国では殆ど知られていないの。」
自分たちの持って来た茶と菓子をキツネに勧めながらテレーズはニコとキツネに
笑いかけた。
「・・・すみません。なんだかいつもお邪魔する事になってしまって。」
カレンとムルシドと共に食事の下準備を手伝いつつ、アンネローゼが申し訳なさ
そうな顔をした。
「そんなにしょぼくれないで。いつも差し入れもしてもらってるし、お手伝いも
してもらってるし・・・」
「うむ 大勢で食事するのは楽しいしよいではないか。そう遠慮せずとも・・・」
遺跡外では緩やかに時間は流れていた。
探索が出来ぬ事で余裕が出来た事もあり、親交を深める事も出来る。
今までもそうだった。あの人物は必ず何らかのリアクションを取るはずだ。
それまではゆったりと休息をとり、島での生活を満喫するのも悪くはない。
繁華街の掲示板には夏の海を楽しむイベントの告知等も貼られている。
スリルが好きな冒険者達の中には島を見限り島を去った者もいたようだが、
大半の者達はあの謎の招待状の送り主の動きを待つ事にしたようだった。
野営地から少し離れた所にある樹の下で煙草を吸いながら黒風が空を見上げて
いた。
「ふん さすがに歳食ってるだけに楽観的・・・にはなれんか?」
そう声をかけながらシュラは黒風の側に腰を降ろした。
煙草の煙はゆらゆらと揺らめき、高い場所で空気に溶けて行く。
「まぁな。俺が抱えている問題がクリアになった訳ではないし・・・キツネや
カレンを狙っている白面とやらの事も解決した訳ではない。
平穏な時に厄介ごとは突然やってくるモノだ。油断は出来んだろう。」
ゆったりとした中に何処かひっかかるナニかの気配を、黒風も感じているの
だろう。煙草の火を消し、吸い殻を腰に付けた携帯用の灰皿に詰め込むと腕を
組んでシュラの方へと視線を移した。
「カルマートの黒い風はまだ耄碌しちゃいネェって事か。
ま 確かにナニが起こるかわかんないからな。この島では特に・・・。」
「そうじゃなぁ〜 こんなデタラメな場所、他の世界でも滅多にないからの。」
樹の茂みからいきなり黒髪の小娘が逆さまのまま顔を出し、シュラと黒風を見て
にやりと笑った。
小娘の正体は黒風と一体化した黒い虎神、トウコツだ。
最近は黒風と分離して人型のまま島の生活を満喫している。
「今の所危険は無いとは思うが、油断はせぬ方が良かろう。
どうも遺跡の中の方では力が満ちておるような感じがしてならぬ・・・」
耳をくるくると動かしつつそう言うと樹から飛び降りてぼてぽてと黒風の側へと
歩み寄り、トウコツは黒風の服の裾を掴んだ。
「で、今日の飯は何じゃ?
どうせまたおぬしのご友人達とやらが大挙して押し掛けて
おるだろうし、西洋の食べ物だろうが…たまには東洋の食事も食いたいのぅ。」
少ししおれた様子のトウコツを黒風はひょいと肩の上に乗せ、野営地の方へと
足を向ける。
「メニューについてはムルシド殿が決定権を持っている。
食べたい物をリクエストしてみるといい。
アンネローゼ達もいつもと違う食事を喜ぶかもしれないしな。」
野営地の方へ向かう2人を見送り、シュラは遺跡の入り口のある方向へと意識を
向けた。
いつもと変わらぬ空の色。空気も何一つ変わらない。
繁華街も港もいつも通り冒険者達で賑わっている。
「確かに 閉ざされてしまった先の事は此処からでは見えぬし分かりはせぬ。
あの虎神の力を持ってしても分からぬと言うのも…不気味じゃな。」
「この島自体が普通の理とは違う力の上に成り立っているからな。神族の力が
通用しないとしても驚かん。」
この平穏な日々が続けばいい。何事も無い事が一番だ。
そんな事をシュラは思う。
しかし・・・カレン達の宿業はそれを多分許さない。一時の平穏の後にそれは
必ずやって来る。どんな形でやってくるのか分からぬままに。
誰も何も言わなかったが、多分いつ何が起きてもいいように覚悟はしているだろう。
「さて ムルシドの手伝いをするとしようか。」
深呼吸を1つした後、シュラは野営地の方へと歩いて行く。
陽が傾き、青空に少し赤みが差した空を風が駆け抜ける。
夏の日差しに焼けた土の匂いと、空にある大きな雲が内にはらんだ水の香りを
乗せた風は野営地のある平原を西から東へと走っていった。
遺跡の島の平穏な夏の1日が終わろうとしていた。
明日の事は誰にも分からない。
そう この島がこの先どうなってしまうのかも。
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