しかし運命と言うモノは幸せばかりを運ぶ物ではない。
世界を巡り、復興を終えて暫くして竜は命を落とした。
愛すべきマスターのあの娘の命を救う為、傷つき息絶えたのだ。
前の時と違って竜は卵を遺さず、その魂はサンサーラの掟に従って行くべき世界
へと旅立っていった。
相棒を失い遺された娘は竜を愛するあまり正気を失い、外法に手を出して重い業
を背負う事となる。
愛する者も友を得る事さえ出来ず1人で生き続ける。
それがあの娘の魂に課せられた罰。 赦される時が来るまで孤独のまま生き続け
なければならない。
そんな業を背負って娘が転生した先は・・・
科学が進んだ『地球帝国』と言う名の世界。
そこでの生は娘の魂を傷つけ更なる業を背負わされるものでしかなかった。
おかしい。
通常では考えられぬ動きだ。
しかも奇妙な歪みも感じられる。 最初はとても小さなものだった。儂は縁の
ある娘であったからずっと見守っていた事もあり早いうちに気付いたが、その
小さな歪みはあっという間に大きな物となり、隣接する世界へと微妙に影響を
与え始めた。
他の世界の管理者達もその歪みについて危険を感じ始め・・・
事ある毎に<歪み>について論じられるようになった。
「このままではあの歪みが世界を崩してしまう。」
「美しく重なり合った世界が、あの歪みで撓みはじめている。」
「あの歪みを解かねば…世界の理が崩壊してしまう。」
「あの歪みの元を探し出して消さねばなるまい。」
歪みの中心は…あの娘だった。
いや 正しくはあの娘の魂に食い込んでいる別のナニか。
<ダキニ>と呼ばれている何かがあの娘の魂を浸食していたのだ。誰が何の為
にそんなモノを作って歪みを作り出したのか?
「アルシンハ。 あの娘は貴殿管轄の世界で業を背負ったと聞く。
あの娘に関して貴殿の干渉を御大が許可なされた。
早急に歪みを正すようにとな・・・。」
その時点で儂が出来た事は、<キズナ>と呼ばれていた娘から傷ついていない
部分の魂を分離し、別の世界で業を洗い流させる事だった。
あのまま放置していれば娘の魂はどうしようもなく傷ついて2度とサンサーラ
の理に戻る事が難しかったからだ。
その世界は他の世界とは少し離れており、あの娘に手出しをした何者かに探し
出せる場所ではなかった。そこでかりそめの身体を作って娘の魂を吹き込んだ。
その世界で魂の救済をさせて娘の業を少しでも洗い流して償わせる事。
多分 とてつもなく永い時間がかかるであろう。
だが、その時は・・・そうするしか方法がなかった。
そして、儂はあの娘と縁のある者達を探す為、丹念に世界を一つ一つ巡り
探しまわった。
たまたま立ち寄った世界で出会った男に纏わりつく竜の気が気にかかり、
この男に一つの物語を語った事もあった。
魂は広大な世界を巡り世界を成す原動力となる。そんな中から2つの魂を
探し出す事は困難で時間がかかった。
が、ようやくその2つの魂を見つけ出す事が出来た。
一つはあの娘の友であった竜使いの女の魂。
彼女は竜の血を引く娘として生まれ変わっていた。
彼女もまた竜を愛し竜を失った者であったからか、今度はその身に人と竜
を混在させる者となっている。
一つはあの娘が愛し、あの娘を愛していた相棒の竜の魂。
竜は人として生を受け、竜使いの女の<弟>として生まれ変わり・・・。
しかも、赤子のうちに夢を渡ってあの娘の生まれ変わり<キズナ>の魂と
出会っていた。
縁と言う物は侮れぬ。
前世の記憶を失ったとしても、深く結ばれた縁は分かれた2つの魂を引き寄せ
合うものなのかも知れない。
そして…この2人の強い絆がもしかしたら歪みを解く力となるのではないか。
更に驚いたのは探していた2人の父親が大昔に出会ったあの男だった事だ。
出会った時はまだ普通の人間だったが、今は竜を身体に宿している。
ここまで竜づくしで縁が繋がると、この儂でも笑ってしまうのぅ。
竜によって狂ってしまった者を救うには、竜の力を持ってしか救えぬのかも
知れぬ。
まあ良い。
3人ともが自分の意志であの娘を救う事に対して前向きでいてくれるのも幸運
な事だ。
こうも奇麗にお膳立てされたかのように竜の縁のあるモノが揃うのも何かの縁。
あの娘を救う為に御大がお膳立てしてくれたと思う事にしよう。
決してお前は1人ではない。
友だった者も、愛した者もお前の事を案じておる。
だから・・・お前を縛っている戒めを自分で解いて出てくるがいい。
今 お前がいるその島で、お前が愛しお前を愛している者が待っているの
だから。お前の名を呼んでいるその者の声が、絶望の深淵に沈むお前の耳に、
お前の心に届く事を・・・
儂は願っておるのだ。